事件の概要
ラブホテルに「ホテルシャネル」との名称をつけて営業していたところ、シャネルが不正競争防止法に基づいてそのラブホテルを訴えて、シャネルが勝訴した事案です。
シャネルについて
シャネルは、フランス人女性のココ・シャネルがフランスで興した、1910年から営業している高級ブランドです。
シャネルは、香水、高級婦人服、ハンドバック、靴、宝飾品等を製造販売しています。
シャネルは、日本では殆どの人が知っている著名なブランドなのではないでしょうか。
一方で、アメリカでは、シャネルは、そこまで有名では無いそうです。
私は、アメリカ人にシャネルって皆知っているのかと聞いたことが有りますが、そのアメリカ人は、アメリカの田舎の女子高生の殆どは知らないだろうと言っていました。
シャネルは、日本において、昭和8年には営業を始め、昭和10年には商標登録されています。
戦後の昭和29年にマリリン・モンローが来日した際に、記者団から寝る時の服装を質問されて、「シャネルの5番を着るだけよ」と答えて以来、「シャネルの5番」といえば、直ちにマリリン・モンローの言葉が出るほど周知となったといわれています。
そして、昭和55年に、日本において、シャネル株式会社が設立されました。
ラブホテル「ホテルシャネル」について
昭和41年10月に、神戸で「ホテルシャネル」の名称でラブホテルの営業が開始されました。
ラブホテルに「シャネル」の名称をつけた経緯ですが、以下のとおりです。
このラブホテルの設計士が、「シャネル」の名称を経営者に勧めたそうです。
経営者は、「シャネル」の意味を設計士に聞いたところ、設計士は「シャネル5番」という香水が有ると答えたところ、経営者は「シャネル」という洒落た名称が気に入り、自分が経営するラブホテルの名称を「ホテルシャネル」とすることにしました。
その後、昭和55年に、シャネル株式会社がこのラブホテルを混同惹起行為(現不正競争防止法第2条第1項第1号違反)であると、神戸地裁に損賠賠償請求を提訴しました。
神戸地裁の判決 (神戸地判昭和62年3月25日)
昭和二九年二月にマリリンモンローが来日した際、寝るときは「シヤネル五番を着るだけよ」と答えたという話は、同女が真実そう答えたかどうか真偽の程はとも角として、いわゆる戦後の舶来崇拝の風潮が蔓延していた当時の時代背景の下で、同女の映画スターとしての人気と相まつて我が国民の間に一躍有名になつたのであり、ここに香水「シヤネル五番」は周知の商品となり、これに伴つて「シヤネル」は、その製造販売元であるシヤネルグループの営業たることを示す表示としてそのころから昭和三〇年代の始めにかけて我が国においても周知となつたと認められる。
中略
原告の属するフアツシヨン関連業界においても経営が多角化する傾向にあり、著名なデザイナーの名を冠したいわゆるブランド商品が多数出回つている現状に思いを致すとき、少なくとも一般消費者において本件ホテルが原告らシヤネルグループと業務上、経済上又は組織上何らかの連携関係のある企業の経営に係るものと誤認する虞を否定することはできず、したがつて、「ホテルシヤネル」の名称を使用して本件ホテルの経営をした被告の行為は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせるものと認められる。
中略
原告は、長年にわたつて培つてきた「シヤネル」の表示のもつ高級なイメージを、一般に低俗なイメージを与えるいわゆるラブホテルの名称として使用されたことにより、侵害されたと認められるのみならず、他人が「シヤネル」の名称を使用するときは、「シヤネル」の表示が有している原告らシヤネルグループの商品及び営業を喚起させる力を阻害し、その結果、同表示の宣伝的機能を減殺することになる(いわゆる希釈化)といわざるを得ない。
神戸地裁は、上記のように認定して、シャネル株式会社のラブホテルに対する損害賠償請求を認めました(但し、訴額1200万に対して、120万円に減額)。
解説及び感想
本事案は、「ホテルシャネル」と名付けられたラブホテルと、高級ブランドであるシャネルとが混同が生じているとして不正競争防止法の混同惹起行為(現行の不正競争防止法第2条第1項第1号)であるか否かが争われた事案です。
神戸地裁は、『原告の属するフアツシヨン関連業界においても経営が多角化する傾向にあり、著名なデザイナーの名を冠したいわゆるブランド商品が多数出回つている現状に思いを致すとき、少なくとも一般消費者において本件ホテルが原告らシヤネルグループと業務上、経済上又は組織上何らかの連携関係のある企業の経営に係るものと誤認する虞を否定することはできず、したがつて、「ホテルシヤネル」の名称を使用して本件ホテルの経営をした被告の行為は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせるものと認められる。』と、混同すると認定しています。
果たして、「ホテルシャネル」と名付けられたラブホテルと、高級ブランドであるシャネルとが混同がするのでしょうか?
私はそうは思いませんし、皆さんもそう思うのではないでしょうか。
高級ブランドであるシャネルが、ラブホテルを経営しているとは、まさか思わないでしょう。
今では、ラブホテルは、お洒落な内外装でブティックホテルと言ったりしますが、昭和40年頃のラブホテルは、建物がお城の形をしていたりして、強烈な印象を残す外観をしていました。
この時代には、ラブホテルは、いかがわしいものとして、新聞・雑誌等のメディアで広告が拒否され、インターネットが無い時代には、目立たないと誰もラブホテルと気づいてもらえないので、建物を目立たせて、建物自体を広告媒体としていたそうです。
そんな時代において、高級ブランドであるシャネルが、ラブホテルを経営しているとは思うことは無いでしょう。
神戸地裁は、「一般に低俗なイメージを与えるいわゆるラブホテル」と認定しています。
裁判所は、時として、法律を拡大解釈して適用します。
裁判官は、個別具体的事情を勘案することにより、どちらを勝たすことが社会正義に叶うのかと思いを巡らして、判決する場合が有ります。
本事案はまさにそういう事案だと思います。
「ホテルシャネル」と名付けられたラブホテルと、高級ブランドであるシャネルとは混同しないものの、「シャネル」の著名性を冒用することによって利益を得て、それと同時に「シャネル」の高級なイメージを毀損させることは、社会的に許されるべきでないとして、無理やり混同していると認定することにしたのだと考えます。
シャネルは著名なブランドであるので、今では、不正競争防止法の著名表示冒用行為(不正競争防止法第2条第1項第2号)と認定されると考えます。
しかし、この当時には、不正競争防止法の著名表示冒用行為(不正競争防止法第2条第1項第2号)は、存在しませんでした。
不正競争防止法の著名表示冒用行為について 新規タブが開きます
不正競争防止法の著名表示冒用行為(不正競争防止法第2条第1項第2号)が存在しない状況下において、無理やり混同が生じるとして、不正競争防止法の混同惹起行為(不正競争防止法第2条第1項第1号)であると認定する裁判例が続きました。
ポルノランドディズニー事件(東京地判昭 59.1.18)
喫茶店シャネル事件(東京地判平 5.6.11)
結論は正しいものの、法の適用の仕方が良くないとの法曹界からの批判により、平成5年に、不正競争防止法の著名表示冒用行為(不正競争防止法第2条第1項第2号)が新たに追加される法改正が行われることになりました。
シャネルが、指定役務「宿泊施設の提供」で商標権を取得しておけば良かったのでは無いかとも思われますが、この当時は、商標は商品についてのみ取得でき、サービスについては取得できませんでした。
平成3年(1991年)の商標法改正によって、サービスについて商標権が取得できるようになりました。
この法改正によって、著名な商標については、自分が使用しない指定役務について防護標章を取得することによって、第三者による著名な商標のサービスへの使用を阻むことができるようになりました。
シャネルは、上記の法改正後に、第三者による「シャネル」の使用を阻むために、防護標章を取得しています。
次回は、最高裁判例であるスナックシャネル事件を取り上げたいと思います。
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